2009年05月27日

葡萄酒

二階までの階段を、どれだけの時間を掛けて上ってきたのだろうか。
その杖をついた老人はカウンター中央の丁度空いていた席にゆっくりと腰掛けた。

湯気の立つおしぼりを受け取りながら

「 葡萄酒 ・ ・ ・ 」

と、低い声でひと言だけ呟くと店内は一瞬にして、それまでと違う空気に包まれた。
静かに流れるサティのジムノペディ第1番が重苦しい。

ぶどうしゅ ・ ・ ・???

バーテンダーは、悩みに悩んだ末に深く紅い色の液体をグラスに注いだ。
「 それは何? 」という先客の視線がバーテンダーの手元に突き刺さる。

やがて老人は頷きながら、皺の無い紙幣を一枚カウンターに残して
静かに帰っていった。

老人の発した言葉は「 葡萄酒 」だけだった。

葡萄酒





同じカテゴリー(◆独り言・・・雑感)の記事
牛乳チェイサー
牛乳チェイサー(2024-11-01 16:30)

モーニング
モーニング(2024-10-06 02:29)

発芽のとき
発芽のとき(2024-09-09 18:06)


上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
葡萄酒
    コメント(0)