「チンザノを使ったカクテルを・・・」

そんなオーダーに、
バーテンダーが冷蔵庫から取り出したのは冷えたドライ・シェリーと
チンザノ・ロッソ、それにノールドのオレンジビターズを1ダッシュ。
それらを素早くステアしてグラスに注いだカクテルは・・・、


【Venus and Adonis／ヘンドリック・ホルツィウス／オランダ】


ギリシャ神話の美少年、―――Adonisアドニス。

この美し過ぎるアドニスを二人の女神ヴィーナスとペルセポネは取り合った。
取り合いの果てにペルセポネは怒って、ヴィーナスの愛人アレスに言いつけた。

「ヴィーナスは、あなたを差し置いて、たかが人間を愛している」と

アレスは嫉妬に怒り、凶暴な猪を野に放す。
そしてアドニスは猪に突き殺される。
ヴィーナスはアドニスの死を悲しんだ。
死と嘆きを忘れないように、毎年思い出すように、アドニスの身体から
流れる血に、深紅のアネモネを咲かせた。


【The Awakening of Adonis1900年／ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス／イギリス・ラファエル前派】


そうして、アネモネは暖かな季節になると、可憐な花を咲かすのである。

アネモネは儚い花で風が吹くと花が咲き、二度目の風で花弁が落ちると
いわれている。

ギリシャ語のアネモス（風の花）から来た言葉だという。
　　　　　　　　　　　　　―――参照／ギリシア神話小事典（社会思想社・教養文庫）





そう、このAdonisアドニスというカクテルが赤い理由は、美少年アドニスが
流した深紅の血に咲いたアネモネの色なのではないのかと思う。